電子回覧板が普及しない本当の理由

導入したのに利用率が伸びない自治会に共通する設計ミス

電子回覧板を導入したとき、コンセプトはシンプルだった。紙の回覧板と同じ情報を、デジタルで届ける。それだけだ。

目標を6割に設定した。半年後、利用率は3割で頭打ちになった。目標の半分だ。そこから一切伸びなかった。

その3割の正体を後から分析すると、ほぼ役員とお願いして無理やり登録してもらった層だった。自分から進んで見に来た住民ではない。つまり「お願いしないと見ない層」しか取れていなかった。残りの6割、自分から勝手に見てくれる層には、まったく届いていなかった。

若い世帯には喜ばれた。普段からスマホに慣れているから、むしろ紙より便利だという声もあった。しかし高齢の住民には刺さらなかった。アプリを操作するというハードルが高すぎた。「IDがどれかわからない」「あんな小さい画面では見られない」「自分ではできない」。紙が一番という住民が多かった。

話を聞いていくうちに、意外な本音が見えてきた。高齢の住民が電子を嫌がった本当の理由は、デジタルへの抵抗ではなかった。操作がわからなくて、地域の大事な情報が入ってこなくなることを恐れていたのだ。回覧板の情報を誰よりも大切にしていたのは、高齢の住民だった。それを知ったとき、正直驚いた。

そこで気づいた。問題はツールではなかった。そもそものコンセプトが間違っていた。紙の代替として設計した瞬間に、失敗は決まっていたのだ。

では、正しいコンセプトとは何か。

紙と電子は、届けるターゲットが違う

新聞は紙と電子版で役割を明確に使い分けている。紙は「世界を広く見せる」ために設計されている。じっくり読む層に向けて、その日の情報をパッケージとして届ける。電子版は「必要な情報を速く見つける」ために設計されている。通勤中にスマホでチェックする層に向けて、タイムリーに届ける。媒体が違うのではない。届けるターゲットと役割が違うのだ。

自治会の回覧板も同じ設計思想が必要だ。

紙の役割:既存住民への「安心」と「深い理解」の提供

すでに自治会と繋がっている住民に、じっくり読んでもらう。手元にある。存在感がある。回覧板の情報を大切にしている高齢の住民には、引き続き紙で届ける。それが紙の役割だ。

電子の役割:新住民への「速報」と「ゆるい接点」の創出

自治会とまだ繋がっていない若い世帯に、タイムリーに、スマホで、気軽に届ける。回覧ではなく見られるから、お願いしなくても自分から見てくれる層に届く。それが電子の役割だ。

そしてこの両立は、役員の負担を増やしては意味がない。負担が増えれば、誰も続けられないからだ。

電子回覧板を「紙の代替」として設計した瞬間に、失敗が始まる。

「電子用に原稿を別で作らないといけないのか」

これは必ず出る疑問だ。答えはノーだ。

最初は、配布している紙の回覧板をスマホで撮ってアップするだけでいい。まずは「スマホで見られる」という既成事実を作ることが先だ。

慣れてきたら、デジタルならではの「おまけ」を添えればいい。

  • イベント会場の地図リンクを貼る
  • 去年の楽しそうな写真や動画を添える
  • Canvaや生成AIで作ったカラーのチラシを載せる

デザインが得意な住民が地域にいれば、少し報酬を払って頼むのも一つの手だ。それ自体が、若い世帯と自治会の新しい接点になる。

これだけで、若い世帯にとっての回覧板は「面倒な義務」から「便利なツール」に変わる。コンテンツは後からついてくる。

デジタルには、紙にできないことがある

今は誰でも簡単にかっこいいチラシが作れる時代だ。デザインの知識がなくてもカラーのチラシが数分で完成する。紙で同じものを印刷しようとすれば、カラー印刷のコストと部数の問題が出る。しかしデジタルなら配信コストはゼロだ。タイムリーに、何人にでも、何度でも届けられる。

ツールを変えても何も変わらない。届く内容が変わったとき、はじめて行動が変わる。

ただし、ハードルは徹底的に下げなければならない

操作が難しい。IDがわからない。自分ではできない。どれだけ優れたコンテンツを作っても、開けなければ意味がない。

高齢の住民が恐れているのは、デジタル化そのものではない。大切な情報にアクセスできなくなることだ。だからこそ、ハードルを限界まで下げる必要がある。URLをブックマークするだけで、登録不要、操作不要で見られる。その設計思想を、仕組みとして実装したのがまちコネだ。

電子回覧板は「紙の代替」ではない

設計を間違えれば、3割で止まるかもしれない。設計を変えなければ、浸透していかない。

電子回覧板は紙を置き換えるものではない。紙では届かなかった人への、新しい接点だ。紙を望む住民には、引き続き紙で届ける。電子では、これまで届かなかった若い世帯に届ける。

必要なのはツールではない。役員の負担を増やさずに、紙と電子を両立させる仕組みだ。残りの6割、自分から見に来ない層は、まだそこにいる。

最初の一歩はシンプルでいい。「誰でもすぐ見られる状態」を作ることだ。

なぜまちコネを作ったか

若い世帯が自然に地域と接点を持てる仕組みを作りたかった。タイムリーな情報を、登録不要でスマホから見られる。それだけで、最初の一歩が生まれると信じている。

まちコネを詳しく見る →

── 大手複合機メーカーで25年、紙のデジタル化推進を担当。現在は佐賀県に移住し、自治会・町内会向け電子回覧板サービス「まちコネ」を開発・運営。自治会元役員。

まちコネのサービス画面とロゴ
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